多角的な実証実験を通じて、新規事業の創出を狙う

〜伴走者としてDX推進をサポート〜

 

時流を掴み、印刷技術をDXの力に変える

 

 2020年に創業120周年を迎えた凸版印刷。「印刷テクノロジーで、世界を変える」という力強いメッセージを発信する同社は、世界中に160箇所以上の拠点を構え、長年培ってきた印刷技術を土台に多角的な事業展開を進めている。

 

多様な事業やプロジェクトの背景には、中長期的な成長戦略として掲げる「トッパン・デジタルトランスフォーメーション(T-DX)」がある。凸版印刷はマーケティングや製造分野におけるDXを推進し、新規事業の創出や社会課題の解決を進めてきた。

 

「私たちは新規事業に関するアイデアの発案だけでなく、新しい技術や機能を社会に実装することを重視しています。納得のいく成果が出るまで、協業先としっかり伴走する。そのため、全体のプロセスを考えながら、プロジェクトを成功に導く人材の育成や採用が必須です。しかしその一方で、社会全体でDX化が進み、弊社内の新規事業の幅も広がった結果、人手不足が深刻な課題となっていました」と、情報コミュニケーション事業本部の事業創発本部、BD推進チームの張平氏は話す。

 

事業創造本部は、凸版印刷において新規事業の中核を担う部署だ。同部の前身となる「テクノロジーラボ」が発足したのは2011年。それ以降、デジタルテクノロジーを軸にした新規事業の創造に向けて様々な実証実験を進め、戦略立案からインフラの構築まで、企業の事業活動や社会課題の解決に向けたトータルソリューションを提供してきた。

 

 

PoCプロジェクトをベースに、新規事業を創造する

 

 人手不足に課題を抱えていた凸版印刷は新規事業のパートナーを探し始め、2018年からパソナテックとの協業を開始した。共に取り組んでいるのは、3ヶ月から半年ほどの期間を1つの区切りとして、毎回異なるテーマを設定する「PoC(概念実証)プロジェクト」だ。

 

PoCとは、 新しい技術や理論、そして新たな手法やアイデアに対して、実現可能かどうか、目的にあった効果や効能が得られるかなどを確認するために行う検証工程である。

 

 初期段階から凸版印刷との協業に関わっていた、パソナテックDX戦略本部でビジネスプロデューサーを務める石井隆之は「会社の垣根を超えて新規事業を共に創造できるプロジェクトは、弊社のなかでもとても貴重な機会です。それぞれのテーマに対してメンバーが知識をしっかりと深め、最適な形でプロジェクトを推進できるように心がけていました」と話す。

 

過去のPoCプロジェクトの中には、既に新規事業としてスタートを切ったプロジェクトも数多く誕生している。

 

 

 その一つが、地域創生を目指し、自治体と移住希望者のマッチングを支援するWebサービス「ピタロカ ベータ版」だ。移住希望者が理想とする暮らしのイメージに近い写真をウェブ上で複数枚選択すると、おすすめの自治体が提示される。

また、移住希望者は質問掲示板を通じて、自治体の基本情報や子育て環境のほか、支援制度などを気軽に質問できる。

 

 凸版印刷とパソナテックは、ピタロカ ベータ版の前身であるサービスのβ版の実証実験を2019年からスタートさせた。その後技術の検証を重ね、独自の画像診断アルゴリズムがユーザーの移住ニーズや意向を言語化することに成功。自治体と移住希望者の効率的なマッチング機会を創出している。

 

 

駅スタッフの省人化や多言語対応に向けて、コロナ禍に実証実験がスタート

 

 数ある協業プロジェクトのなかには、新型コロナウイルス禍に実証実験がスタートしたものもある。2020年12月からJR東日本高輪ゲートウェイ駅で開始された、駅改札の遠隔案内プロジェクトだ。(下図参照)

 

 

 

 

 凸版印刷とパソナテックが今回開発したのは、AIチャットボットによる無人接客と有人での遠隔接客を組み合わせたサービス「BotFriends® Vision+」。AIだけでは回答が難しい複雑な案内に対して、人が遠隔から対応することで、サービスの利便性を向上させている。

 

駅の利用者から頻繁に尋ねられる質問は、AIチャットボットが自動で応答する。日本語だけでなく、英語や中国語にも対応できる。AIでは回答が難しい話題や質問は、遠隔地からネットワークを介し、人が案内を行う。非接触・非対面で駅の利用客に案内ができるため、安全性の確保にもつながる点が特徴の一つだ。

 

非接触でタッチ画面を操作するために、システムにはセンサーデバイスを搭載。タッチ画面の手前にある赤外線タッチフレーム内に入った指の位置を検知し、ポインタを出すことで、画面上の操作位置を認識できるようにした。

 

 現在鉄道業界では、人手不足が深刻な課題になっている。さらに今後は、全国的に無人駅の増加も懸念されている。凸版印刷とパソナテックらが協同で開発した今回の同サービスは、駅の利用者と鉄道事業者の両者が抱える課題の解決につながり、駅員の案内業務の負荷軽減にも大きく貢献する。

 

 本サービスの開発に携わった、パソナテックDX戦略本部デジタルテクノロジーグループでリーダーを務める及川翔麻は「ウェブ上では利用者側や駅員側に表示される画面だけでなく、会話記録(ログ)の確認やAI対応も含めて、4つの画面が必要になります。そのため、それぞれの画面のレイアウト調整に工夫を凝らしました。また、ブラウザ上で音声や映像などのデータをスムーズに共有できるようサポートさせていただきました」と話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 株式会社パソナテック DX戦略本部 

 デジタルテクノロジーグループ リーダー 及川 翔麻

 

 

 

今回の実証実験では、高輪ゲートウェイ駅に「BotFriends® Vision+」を設置し、データの取得を進めている。今後は他の駅や地域での展開も見据えており、将来的により多くの人が遠隔で対応できる環境が整えば、高い接客スキルをもった育児休業中の社員やシニア人材が、現地に行かずとも業務に対応できるようになる。

 

 

DXプロジェクトの進行には、「スピード感」が鍵を握る

 

 駅改札の遠隔案内プロジェクトが本格始動したのは、2020年の10月ごろ。そこからわずか3ヶ月間で実証実験がスタートできた背景には、パソナテックが意識している「スピード感」が鍵を握っていた。

 

「パソナテックさんとは、ビジネスチャットのスラックを使って日々細かなやりとりを進めていました。2週間に一度の定例会議では短期的な目標を設定し、常にコミュニケーションを取っていましたね。私たちは特にスピード感を意識してプロジェクトを進めていたので、パソナテックさんにも同じ目線で取り組んでいただき、大変ありがたかったです」(張氏)

 

張氏のこの言葉には、DXを活用したプロジェクトには「ウォーターフォール型よりアジャイル型のプロジェクトが望ましい」という想いが込められている。

 

「ウォーターフォール型」とは、プロジェクトやサービス開発の上流工程から下流工程まで、しっかりと順番を追って進めていく開発手法である。一方の「アジャイル型」とは「素早い」という意味をもつ。短期スパンで開発と検証を繰り返しながら、仕様変更や機能追加を進めていく手法だ。とにかく走りながらプロジェクトや製品モデルを臨機応変に変えていく。DXの推進にあたっては、こうした心構えが求められる。

 

 

 そこでパソナテックは、日々のプロジェクトのなかで見つけた課題を一つ一つ解消し、確実に前進できるように体制を構築。一度作成したプロトタイプに対して随時フィードバックを受け、常にブラッシュアップし続ける姿勢を重視した。

 

凸版印刷内では、現在パソナテックとの協業プロジェクトが4つ以上同時に進行している。張氏は「各プロジェクトではそれぞれ異なるテーマを扱っているため、必要とされる技術も大きく異なります。私たちもまだあまり知見をもっていない分野が多いので、パソナテックさんに適切な人員を配置していただき、専門家視点で意見をいただけることを大変嬉しく思います」と語る。

 

「私たちが在籍している新規事業を開発する部署では、難易度が高いと思う内容をパソナテックさんに依頼することも多々あります。ですがその内容を丁寧に因数分解して、適切な技術とフィードバックを提供していただいていることに、いつも感謝しています」(張氏)

 

パソナテックは今後もデジタル技術を活用し、新サービスの創造や生産性向上、コスト削減、そして働き方改革の実現を可能にする取り組みを続けていく。

 

導入先企業情報

 

■導入企業

凸版印刷株式会社

 

 

■利用サービス

 

・ピタロカ ベータ版
 地方への移住希望者と自治体の効率的なマッチングを支援するWebサービス。

 2020年10月から運用を開始している。

 

・BotFriends®Vision+
 人工知能(AI)による無人案内と有人での遠隔接客を組み合わせたサービス。JR東日本の高輪

 ゲートウェイ駅(東京・港)にて、2020年12月より実験を実施している。

 

■プロフィール

凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部部長  事業創発本部 BD推進チーム 張 平氏

凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部係長  事業創発本部 BD推進チーム 山田 亮氏

凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部  事業創発本部 BD推進チーム 多田 汐里氏

株式会社パソナテックDX戦略本部ビジネスプロデューサー 石井 隆之

株式会社パソナテックDX戦略本部デジタルテクノロジーグループ リーダー 及川翔麻

株式会社パソナテックDX戦略本部ITサービス事業部ICT第2グループ リーダー 曽我智広

 

 

インタビュー日時:2020年12月8日

 

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