2023年08月01日 08:30 #人事トレンド
近年、ビジネス界では「レジリエンス」という用語が注目を集めており、多くの企業が人材育成への活用を試みています。ビジネスパーソンにとっても、レジリエンスへの理解を深めておくことは有益といえるでしょう。
この記事では、ビジネスにおけるレジリエンスとはどういうものなのか、その意味や構成要素、個人や組織がレジリエンスを強化する方法についてわかりやすく解説します。
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レジリエンス(resilience)とは「回復力」「再起力」などを意味する言葉です。もともとは工学や物理学の用語であり、変形した状態から元の形に戻ろうとする「弾力性」という意味で用いられていました。心理学的には「精神的な強さ」の指標であり、個人が困難や逆境を乗り越えて適応する能力を意味します。
現在、レジリエンスという用語はさまざまな分野で使用されています。ビジネスにおいては「ビジネス上の困難に対する耐久力や抵抗力」を指し、個人や企業が備えておくべき危機管理能力として注目されています。さらに、組織の変化に対する適応力を指す「組織レジリエンス」は企業価値を評価する一つの指標にもなっており、組織レジリエンスが高い企業ほどステークホルダーからの信頼を集めやすいといえます。
2013年に開催された世界経済フォーラムの年次総会(通称:ダボス会議)では「レジリエンス」がメインテーマとして取り上げられました。その理由は、VUCA時代(※1)に入って将来の予測が困難となるなか、企業が成長するためにはレジリエンスが不可欠であると考えられたからです。これがきっかけとなり、レジリエンスはビジネス界で注目されるようになりました。
(※1)Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉。先行きが不透明で、未来の予測が立てにくい状態を指す。
レジリエンスを高めると以下のような能力が向上し、ビジネスにおいてメリットとなることが期待されます。
一定のキャリアを積み上げると、それに比例して求められる目標も上がっていくものです。このとき、高いレジリエンスを備えていれば、一定以上の目標を設定されても積極的にチャレンジできます。さらに、レジリエンスの高さは逆境に負けない強い心につながるため、たとえ失敗しても目標達成に向けて諦めずに挑戦し続けられるでしょう。
企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化するなか、どのような状況でも臨機応変に対応できる能力が必要とされています。たとえば配置転換や出向、リモートワークの導入など、これまでになかった急激な変化があったとしても、レジリエンスが高い人材であれば自身が置かれた環境にうまく適応できます。
ビジネスではストレスを感じることも多く、過度なストレスが原因で仕事のパフォーマンスが低下したり、体調を崩してしまうこともあります。しかし、ストレスそのものが有害というわけではありません。高いレジリエンスが備わっていれば、ビジネス上のストレスともうまく付き合うことができ、自身の成長につなげられます。
レジリエンス研究の第一人者であるカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスを高めるためのコンピテンシーとして以下の6つの要素を挙げています。
自己認識とは、自分自身の思考や言動、感情、周囲の状況などを客観的に理解し、自らの強みや弱みを正確に認識できる能力です。困難な状況に直面したときも、自身が置かれている状況を客観的に分析することができます。
自制心とは、自らの感情を制御し、自分自身をコントロールできる能力です。危機的な状況になると、一時的に冷静さを失ってパニックになることがあります。そのような場合でも自制心があれば、自己を律して冷静さを保つことができます。
精神的柔軟性とは、物事を多面的に理解し、本質的な対応ができる能力です。困難な状況に直面すると視野が狭くなりがちですが、そのようなときも精神的柔軟性が高ければ、冷静に原因を分析し最適な行動をとることができます。
現実的楽観性とは、ポジティブな思考や行動をとり、目の前の状況に対して前向きな態度を保つ能力です。単なる楽観主義ではなく、現状をポジティブに捉え、的確な行動で状況を打開できる力といえます。
自己効力感とは、目標達成に向けた自信と信念を持ち、困難な状況であっても前向きに挑戦する能力です。小さな成功体験の積み重ねによって高まる能力であり、逆境に陥っても諦めず、次のチャレンジを試みることができます。
つながりとは、家族や友人、同僚などからサポートを受け、課題や困難に対処することです。良好な人間関係を築き、周囲の人々と信頼関係でつながることで、レジリエンスが高まります。また、職場でトラブルが起きた際にも周囲と協力して対処し、早期解決を目指すことができます。
レジリエンスを強化するにはどのような行動や思考が必要となるのか、個人・組織の両面から合わせて5つの具体的な方法をご紹介します。
①小さな成功体験を重ねる
レジリエンスを構成する要素の一つである「自己効力感」とは、困難を目の前にしても「自分にはできる」という信念を持つことです。自己効力感を高めるには、小さな成功体験を重ねることが有効です。
はじめから最終的な到達点を目標にすると、行き着くまでの道のりが長く、途中で挫折してしまうおそれがあります。それを避けるために、大目標に向けたプロセスを小目標に分けることがポイントです。小さな成功体験を経験し、それを積み重ねることで、少しずつ自己効力感が高まっていくでしょう。
②思考パターンを修正する
自分の思考パターンや価値観を修正する方法として、臨床心理学者のアルバート・エリス[4] が提唱した「ABCDE理論」があります。これは思考の癖に気づくABCと、それを改善するためのDEから成る手法です。
A(Activating event)=どんな出来事が起きているか?
B(Belief)=その出来事をどう捉える傾向があるか?
C(Consequence)=起きた結果からどんな感情や行動が生じたか?
D(Dispute)=自分の捉え方に対して反論や修正ができるか?
E(Effect)=修正したことでどんな効果があるか?
上記をもとに自身の思考を整理すると、ネガティブな考え方に対して客観的に反論し、状況を改善する方向につなげることができます。
③自分から周囲の人をサポートして信頼関係を作る
人は難題を目の前にすると、一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、このようなときこそ周囲からのサポートを受けることが重要であり、そのためには普段から周囲の人々と良好な関係を築いておく必要があります。
友好的な人間関係を構築するには、日頃から自分自身が周囲の人をサポートするよう努めることが大切です。まず自分から相手を助けることが信頼関係の第一歩となるでしょう。
①心理的安全性を高める
心理的安全性とは、集団のなかで失敗しても許容されるという個人の安心感のことです。心理的安全性が確保されていない職場では、社員は失敗を恐れてチャレンジできなくなってしまいます。この点、心理的安全性が備わっている職場であれば、失敗を恐れずに果敢にチャレンジでき、レジリエンスの向上につながっていきます。
関連記事:心理的安全性とは?心理的安全性を高めるメリットと測定方法をご紹介
②理念を共有する
理念とは、企業の根本となる考え方や価値観、方向性などを意味します。自社の理念を社員間で共有することで、会社全体の目指す方向性が一致し、社員は自信を持って動けるようになります。また、自社の理念が社員一人ひとりに浸透していれば、困難に向き合った際にも互いにサポートし合い、粘り強く取り組むことができます。
関連記事:企業理念とは?経営理念・パーパスとの違いや作り方、浸透方法を紹介
ストレス社会で健康を保ち、成果を出すためには、ストレスに対し適切に対処することが必要です。レジリエンスが高ければストレス耐性も高まり、パフォーマンスや生産性の向上につながります。個人・組織のレジリエンスは、企業の成長に不可欠な要素といえるでしょう。
また、近年は雇用延長やキャリアの多様化により、社員自らがキャリアに関わる困難に対処する「キャリアレジリエンス」も求められています。キャリアレジリエンスを高めるためには、社員の自律的なキャリア形成を支援していく必要があります。
パソナの提供する「セーフプレースメント・トータルサービス」では、社員に求められる「自律的なキャリア形成」の実現に向けて、社員一人ひとりの多様な価値観やその価値観を尊重する上司・企業に寄り添うトータルサービスをおこなっています。ぜひ、この機会に活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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