2023年12月19日 08:30 #女性活躍推進
近年「ガラスの天井」というワードを耳にすることが増えました。米国で生まれた女性活躍を阻む目に見えない障害を意味する言葉なのですが、昨今は日本でも女性の管理職への昇進や役職への登用シーンで用いられることが多くなっています。
ガラスの天井は、女性活躍を推進するうえで克服すべき課題です。この記事では、ガラスの天井の意味や日本の現状、解消するための施策を紹介します。
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「ガラスの天井」の意味と生まれた背景から説明します。
ガラスの天井とは「実績や能力を有する人物が、性別や人種などを理由として、不当にキャリアアップを阻害されてしまうこと」を指します。米国で生まれた表現であり、英語では「glass ceiling(グラスシーリング)」と表現されます。
キャリアを進めるうえで次のステップが見えているにもかかわらず、あるポジションのままそこから上に上がれず出世を阻まれている現象の比喩表現であり、多くの場合、女性のキャリア上の障害として使われます。
ガラスの天井という表現が初めて用いられたのは1978年です。米国の女性コンサルタントであるマリリン・ローデンが使ったことがきっかけでした。その後、米国では公的な組織でも使われるようになりました。
最近では、2016年のアメリカ大統領選挙でヒラリー・クリントンが敗北した際のスピーチで登場したことで話題になりました。また、2020年にインド系米国人カマラ・ハリスが女性として史上初めてアメリカ副大統領になったときは「ガラスの天井が破られた」と表現されています。
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ガラスの天井と似た表現に「壊れたはしご」があります。こちらは、企業内で最初から女性がキャリアを積み重ねることが難しいことの例えです。そもそもキャリアアップしにくい構造が会社内に存在するため、女性が初級管理職につくことすら難しく結果的に上級の役職にステップアップできないことの比喩表現として用いられます。
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日本では、男女間の格差解消を目指す取り組みが以前からおこなわれてきましたが、ガラスの天井の解消には至っていないのが実情です。以下のギャップが端的にそれを示しているでしょう。
1986年に男女雇用機会均等法が施行された日本では、比較的早い段階からガラスの天井の解消に向けた取り組みがおこなわれてきました。男女雇用機会均等法は頻繁に改正がおこなわれ、1999年には募集や採用、昇進、教育訓練における差別禁止が明示されました。同時にポジティブ・アクション(積極的改善措置)も規定されます。
2007年の改正では、間接差別を禁止する条項も盛り込まれるなど制度面の整備が進みます。その結果、昔と比べると女性は多くの職種で活躍するようになり、就業年数も伸びました。
一方、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数における日本の順位は常に低位です。2023年は146ヶ国中125位で昨年と比べても順位は9ランクダウンしました。「政治参画」のスコアの低さが最たる要因であるものの「経済参画」も平均以下の数値です。
日本の場合、特に管理的職業従事者の男女比が低いことが課題です。2022年の厚生労働省の調査では、日本の女性管理職の割合は12.7%にすぎません。
背景には、法律が改定された当初は女性の採用人数も少なく、管理職世代の女性層が薄いことがあります。また、社会全体の旧来的な慣習や文化、アンコンシャスバイアスの存在などが指摘されています。
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政府は、2023年に東証プライムの上場企業における女性役員の割合を、2030年までに30%以上に引き上げると目標を改定しました。かなり高い目標ですが、企業にも以下のメリットが期待できます。
女性活躍の促進は会社の業績向上につながります。例えば、大手自動車メーカーでは女性管理職のチームが、女性のニーズを商品のイノベーションに取り込んだ結果、車の販売台数を飛躍的に伸ばしました。女性の意見を経営に活かすことの有益性を示す一例です。
車の購入の6割は女性が決定しているという調査結果があります。同様に多くの商品の購買に女性の意志が反映されていることを思えば、女性登用のメリットが理解できます。
ESG投資の市場規模は現在1兆円以上であり、市場規模は年々拡大しています。女性管理職比率はESG投資の観点から重要な指標となります。このため、ガラスの天井を解消することで、ステークホルダーからの評価が高まることが期待できます。
女性を不当に排除している企業は、その分優遇している人材に対して余計なコストをかけているともいえます。特定の層への優遇をやめて人材の能力に見合ったコストに改めることは、人件費の削減につながります。
ガラスの天井を解消するための施策例を紹介します。
まず、組織内にガラスの天井が存在しているかどうか現状を把握しましょう。従業員からの聞き取りやアンケート調査を実施します。このとき、内部調査をおこなうと従業員の本音を聞き出せない可能性があるため、外部の調査機関に依頼することも検討しましょう。
女性がライフステージに合わせた働き方を柔軟に選択できる社内体制を構築します。具体的には、出産や育児をきっかけに退職せざるをえない女性社員をなくすための育児休業や時短勤務、フレックスタイム制などの導入です。周知を徹底して社内の理解を深め、制度を利用しやすい雰囲気を作ることも重要です。
社内コミュニケーションを活性化し、誰もが自由に意見を言い合える雰囲気を作るようにします。メンター制度や1on1、360度評価などの導入が効果的です。社内の立場に関わらず、フラットな関係で議論できる人が増えればカルチャーが変化し、ガラスの天井の解消につながる社内環境が醸成されていきます。
ガラスの天井は組織文化に根付いた問題です。「男性が外で働き、女性は家で家事をする」といったアンコンシャスバイアスが存在する限り、ガラスの天井を解消するのは難しいといえるでしょう。定期的に研修を実施し意識改革をおこなう必要があります。特に管理職世代の意識改革がポイントです。
ガラスの天井を解消した社会とは、誰もがキャリアアップのチャンスを得られ、活躍の場を与えられる社会です。多くの人の幸せにつながるだけでなく、企業もガラスの天井を解消することでSDGsの目標達成や生産性向上、人材の確保といった様々なメリットがもたらされます。
日本では、これまでの取り組みにより企業内で働く女性や初級管理職につく女性はかなり増えました。あわせて女性のキャリア意識、社会の認識も大きく変化してきました。
今後も、企業が継続的に女性活躍推進に取り組み、役員や経営層などの上級ポストに進む女性が増えていけば、ガラスの天井を解消することは可能でしょう。また、結果的に多様な働き方が実現できれば、女性だけでなくさまざまなマイノリティが活躍できるようになるでしょう。
日本の女性の就業率は年々増加しています。しかし、管理職への登用となるとまだまだ女性活躍を阻害する要因も少なくありません。ガラスの天井は今後、多くの企業が克服するべき課題といえるでしょう。ガラスの天井の存在は、一人ひとりの意識の問題も大きく気づきにくい面があるので、定期的な研修機会を確保して地道な意識変革に取り組むことが大切です。
また、家庭や社会における女性の役割はまだ根強く残っているため、女性の負担を減らすべく企業側にはリモートワークや時短勤務など働き方の多様化を進めていくことが求められます。
とはいえ、これまでの女性活躍推進の経験があれば克服できない課題ではありません。現状把握からスタートして、ボトルネックになっているところを解消していきましょう。
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2023年08月15日 08:30
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