2023年11月28日 08:30 #人事トレンド
日本は少子高齢化が急激に進み、人口減少のフェーズに入っています。近い将来、深刻な労働力不足になる可能性が非常に高いため、多様な人材が能力を最大限に発揮して活躍する社会のあり方がますます求められるようになりました。
ビジネス領域では、これまでも女性・外国人・シニアなどの活用を推進するダイバーシティの取り組みが進められてきました。さらに近年は、個人の「脳の多様性」を活かす取り組みに注目が集まっています。
例えば、発達障害というと従来は何らかの能力の欠如と捉えられることが一般的でした。しかし、最近はそれを障害ではなく脳や神経に由来する個人の特性と捉えて、社会での活躍の場を提供していこうというパラダイムシフトが起きています。このような考え方は「ニューロダイバーシティ」と呼ばれます。
この記事では、ニューロダイバーシティとは何か?注目される背景、脳や神経に特性を持つ人材の特徴、ニューロダイバーシティに取り組んでいる企業事例を紹介します。
------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------
まず、ニューロダイバーシティについての基礎知識から解説します。
ニューロダイバーシティとは、個人の脳や神経に由来する特性の違いを尊重して、社会の中で積極的に活用しようという考え方であり、1990年代にオーストラリアの社会学者Judy Singer(ジュディ・シンガー)氏によって提唱されました。
Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)というワードを組み合わせた造語なので、日本では「脳の多様性」や「神経の多様性」と表現されることもあります。
ニューロダイバーシティは、発達障害のいい換えではありません。
例として発達障害が取り上げられることが多いので誤解されやすいのですが、そもそも脳の機能や発達は個人差が大きく、多様性に富んでいます。
ニューロダイバーシティとは「人間は一人ひとりが違って当たり前」という前提で社会を形成する考え方であり、すべての人を対象にした概念です。その上で、一般社会で過小評価されやすい発達障害を持つ人の特性、例えば注意欠如や多動、学習障害などを人間のゲノムの自然で正常な変異として、その人の特性と捉える考え方です。
従来のビジネスのあり方は、業務を画一的に進めることで効率化を図るという考え方が主流でした。いわば「画一的な個人の集合」が企業であるという考え方であり「レンガモデル」と呼ばれています。
しかし、今後のビジネスのあり方は、一人ひとりの個性を尊重し個人差をうまく組み合わせて成果を最大化する方向へ変化しています。こちらは「個性の異なる個人の集合」が企業であるという意味で「石垣モデル」と呼ばれています。
近年の研究の中には、多様性が高いチームからは非常に価値のある研究が生まれる傾向があるという結果が出ているものもあります。ニューロダイバーシティ推進は企業のイノベーション創出につながることが期待できます。
ダイバーシティ経営とは、性別・年齢・人種・障害・価値観などのさまざまな違いを持つ個人を「多様な人材」として受け入れ、一人ひとりの能力の最大化を目指す経営手法です。
ニューロダイバーシティも、多様な人材を活かすという点でダイバーシティ経営の要素の一つです。これまで発達障害とみなされていた自閉症スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などを、個人の特性とみなして活躍の場を積極的に与えていく取り組みです。
ニューロダイバーシティが注目される背景について解説します。
ダイバーシティ経営の推進が、企業の競争力強化という点で有効だと判明してきたため、国や投資家から企業への要請が強くなりました。また、研究が進むにつれ、発達障害といっても多種多様であり、能力の高い人や環境次第で問題なく働ける人がいることが理解されてきました。
このため、発達障害があることをその人の個性と捉えて、社内人材として活用することに注目が集まっています。
日本では急速な少子高齢化が進行しています。2021年時点では総人口の中で65歳以上が占める割合(高齢化率)は28.9%です。そして、2040年には約35%に達すると見込まれています。
労働力不足が将来さらに深刻になることはほぼ間違いなく、就労人口を維持するという観点からも、発達特性を持った人に力を発揮してもらう環境づくりが重要になってきています。
(参考資料:1 高齢化の現状と将来像|令和4年版高齢社会白書(全体版)第1節 高齢化の状況(1)1 高齢化の現状と将来像)
(参考資料:我が国の人口について 「人口の推移、人口構造の変化」)
ニューロダイバーシティを推進するうえでの組織のパラダイムとして、以下の3つの段階があります。企業文化がいきなり変わることは難しいため、ステップを理解しておきましょう。
脳や神経に特性を持つ人材の特徴として、人との関わりやコミュニケーションが苦手という点があります。また、脳の働き方の違いから、行動や情緒も不安定になりがちです。この結果、一般社会で求められる「常識」に適応するのが難しく、就労するうえで障害となる事が多いのが現状です。
しかし、上記のような難点がある反面、一部の人は高い集中力を持っていたり特定の分野で驚異的な能力を発揮したり、優れた業績を残すケースも少なくありません。このようなポジティブな面に着目してニューロダイバーシティを推進すれば、人材を活かすことができるでしょう。
企業としては、まず人材の特性を見極め、それぞれに合った環境やポジションを与えることがポイントとなります。
ニューロダイバーシティに取り組む代表的な企業事例をご紹介します。
Google社では多様な人材が力を発揮できる環境を目指して「自閉症キャリアプログラム」を開始しました。自閉症の人材が持つ能力を活かせる業務を用意して、多様性の実現と競争力強化を目指しています。
具体的な取り組みとしては、採用プロセスでの面接時間の延長や事前質問の提供、書面による面接を実施しました。また、採用後のスムーズな定着を目指して管理職向けの研修の実施や専門家による就労サポートもおこなっています。
(参考資料:多様性を持つ人材を活かして職場を強化)
アクサ生命では、2020年からニューロダイバーシティの社会啓蒙活動をおこなっています。会社として取り組むコミットメントの中にも「ひとつのチーム」というテーマを設定しました。これは多様な人材を柔軟に受け入れることの宣言といえます。
さらに、ニューロダイバーシティ採用を実施しています。「チャリティではなく、チャレンジ」を標榜して、多様な人材を積極的に採用する取り組みを推進しています。
(参考資料:インクルージョン&ダイバーシティへの取り組み|採用情報|アクサ生命保険)
リコーでは自閉症の人材が力を発揮して、新商品の開発に貢献している事例があります。数学的な能力に突出している人材をデジタル戦略部に配属し専門業務を任せたところ、アルゴリズムの開発で中心的な役割を担うようになりました。その結果、チームはこれまで数時間かかっていた作業を数分でおこなうツールの開発に成功しました。
また、配属にあたっては、現場に雑音の少ない作業環境を用意したり、体調管理も細かく実施したりするなど、十分な配慮もおこないました。
(参考資料:ニューロダイバーシティ 発達障害の人が活躍できる社会を NHK解説委員室)
ニューロダイバーシティとは、一人ひとりの脳や神経に由来する多様性を理解して、社会の中で積極的に活用しようという考え方です。企業は、ニューロダイバーシティを推進することで、より多様な人材に能力を発揮してもらえる可能性が高まります。イノベーションの創出という点からも、労働力不足への対応という点からも期待できるアプローチだといえるでしょう。
2024年02月06日 08:30
近年は、人事領域でも「フィジカルキャピタル(物的資本)」や「ヒューマンキャピタル(人的資本)」という用語に続き「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」という言葉が注目されています。 ソーシャルキャピタルとは、端的にいえば個人の持つ社会的なネ
2024年01月30日 08:30
モチベーションが高く、自律的に働く従業員の多い組織は企業の理想でしょう。しかし、現実には、従業員のモチベーション低下に悩む企業が決して少なくありません。 企業と従業員との関係性はここ20年でかなり変わりました。現状も、昔ながらの人事の仕組み