2022年11月02日 08:00 #人事トレンド
2022年10月より、パート・アルバイトといった短時間労働者に対する社会保険の適用が拡大されました。新たに被保険者となる従業員がいる場合には、事前に加入対象者の把握や加入対象者への説明、資格取得届の準備が必要となります。
この記事では、社会保険の適用拡大にスムーズに対応できるよう、厚生労働省の「社会保険適用拡大ハンドブック」をもとに改正内容や対応すべきポイントについてわかりやすく解説します。
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■社会保険の適用拡大とあわせて企業が把握しておくべきポイント
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社会保険適用拡大の対象は、従業員数501人以上の企業で2016年10月よりすでに開始されています。これが2022年10月に従業員数101人以上の企業、2024年10月には従業員数51人以上の企業も対象となり、企業規模ごとに適用範囲が段階的に拡大します。
従業員数としてカウントされるのは、現在の厚生年金保険の適用対象者です。具体的にはフルタイムで働く従業員と、週労働時間がフルタイムの3/4以上(フルタイムが40時間の場合は30時間以上)の従業員を合わせた数となります。
出典:厚生労働省『法律改正によりパート・アルバイトの社会保険の加入条件が変わります。』
2022年10月からは「被保険者の総数が常時100人を超える」企業が新たに社会保険適用拡大の対象となりました。従業員数の変動がある企業は、直近12ケ月のうち6ケ月で基準を上回った時点で対象となります。
なお、法人の場合は法人番号が同一の事業所を合計してカウントします。
2022年10月から新たに社会保険の加入対象者となるのは、以下の項目すべてに当てはまる短時間労働者(パート・アルバイト等)です。
· 労働時間:週の所定労働時間が20時間以上
· 賃金:月額賃金が8.8万円以上
· 勤務期間:2ケ月を超える雇用の見込みがある
· 適用範囲:学生ではない
【労働時間】
従業員の労働時間は、労働契約上の「週の所定労働時間」で判断します。ただし、所定労働時間が週20時間未満であっても、2ケ月連続で実際の労働時間が20時間を超え、3ケ月目以降も同様の状況が見込まれる場合は、3ケ月目から社会保険の適用対象となります。
複数の事業所で働いている場合は労働時間を合算するのではなく、事業所単位で要件を満たすかどうかで判断します。
【賃金】
月額賃金の計算に残業手当や通勤手当は含みません。複数の事業所で働いている場合は賃金を合算するのではなく、事業所単位で要件を満たすかどうかで判断します。
【勤務期間】
2022年10月の適用拡大前までは、勤務期間に関する条件は「継続して1年以上雇用される見込み」とされていました。これが2022年10月以降は通常の被保険者と同様に「2ケ月を超える雇用」に変わるのが重要なポイントです。
従業員数501人以上の企業で2016年10月よりすでに社会保険の適用を拡大している場合も、勤務期間の条件が「1年以上」から「2ケ月を超える雇用」に変わることで、さらに対象者が増える可能性があります。
【適用範囲】
学生は社会保険加入の対象外です。ただし、休学中の場合や夜間学生として学んでいる場合は加入の対象となります。
社会保険の適用対象が拡大されることで、従業員や企業には以下のような影響が生じることが考えられます。
社会保険の加入によって年金が「基礎年金+厚生年金」の2階建てになり、給付金が上乗せされます。病気やケガで障害状態と認定される場合に受け取れる障害年金においても、下図のように保障の範囲が広がります。
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大ハンドブック」
医療保険においても保障が充実し、病休期間中は傷病手当金として、産休期間中は出産手当金としてそれぞれ給与の2/3相当が支給されます。
また、社会保険の保険料は給与からの天引きとなり、保険料の半額を会社が負担するため、労働者本人が支払う額は少なくなります。
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大ハンドブック」
配偶者の扶養に入り、基準額である年収130万円以下で働いていたパート・アルバイトは、年収106万円を超えその他の要件も満たした場合、本人が社会保険に加入しなければなりません。保険料の負担は生じるものの、従来の130万円を超えた場合に負担する額よりは少ないうえ、これまでより保障内容が手厚くなるというメリットがあります。
厚生労働省の試算では、社会保険の適用拡大にあたり企業が負担する短時間労働者1人あたりの追加コストは年間約24.5万円(40〜65歳の場合は+約1.5万円)です(厚生労働省『年金制度の仕組みと考え方』より)。
また財務省の資料によると、2022年10月と2024年10月の適用拡大により、新たに約65万人の労働者が社会保険の加入対象になると推計されています(財務省『社会保障(参考資料)』より)。
社会保険の加入対象が拡大すると、企業側は社会保険料の負担が増えることになります。特に飲食業や小売業など短時間労働者を多く雇っている業種の企業では、負担増により採用や雇用、労働時間の見直しが必要になる可能性もあるでしょう。
2022年10月、2024年10月と段階的に適用範囲が拡大する社会保険。社会保険適用拡大の対象となる企業は、社内準備として以下のような対応に着手する必要があります。
まずは、新たに社会保険の加入対象となる4つの要件に当てはまる従業員を把握します。社内に加入対象者がいる場合は、社会保険適用拡大の内容についてしっかりと理解してもらえるよう、書面や説明会などで社内周知をおこなう必要があります。
現在の労働時間では加入対象にあたらなくても、今後加入を検討したい従業員もいるかもしれません。従業員の範囲は限定しすぎず、広く周知をおこなうとよいでしょう。
新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者のなかには、今後の働き方を見直したいという人も出てくるでしょう。労働時間を減らして社会保険の加入対象にならない範囲で働きたい、または社会保険加入をきっかけに労働時間の延長や正規雇用への転換を希望したいなど、さまざまなパターンが考えられます。
このような従業員の要望や不安を見過ごしてしまわないよう、アンケートや個人面談などの実施で個々の意見を拾う機会や、従業員が相談できる機会をつくることが大切です。
2022年10月の社会保険適用拡大の対象に該当する従業員数101〜500人の企業で、新たに加入対象者がいる場合は、2022年10月5日までに厚生年金保険の「被保険者資格取得届」を提出する必要がありました。従業員数51〜100人の企業は、2024年10月までに届け出をすることになります。
適用拡大によって被保険者となる従業員の手続きは、新たに雇用した被保険者となる従業員の手続きと同様です。インターネットを利用した電子申請に対応しており、24時間いつでも手続きをすることができます。
厚生労働省の「社会保険適用拡大ガイドブック」によると、社会保険の適用拡大に伴う企業の負担を軽減するために、さまざまな支援事業や助成金が設けられています。これらについてもしっかりと把握し、社内準備や費用負担の削減に役立てましょう。
社会保険料の企業負担がどのくらい増えるかを把握したい場合は、厚生労働省が公開している「社会保険料かんたんシミュレーター」を活用するとよいでしょう。新たな加入対象者の人数を把握できていれば、このツールを用いて簡単に試算ができます。
また、社会保険適用拡大に向けた社内準備をスムーズに進めるためには、社会保険労務士を無料で派遣する「専門家活用支援事業」や、経営課題の解決に向け専門的な提案を無料でおこなう「よろず支援拠点」などの利用もおすすめです。
社会保険適用拡大の施行期日より前に、労使の合意によって適用を開始する「選択的適用拡大」をおこなうと、助成金や補助金の受け取りで有利に働きます。
中小企業生産性革命推進事業の補助金制度では、企業の取り組み内容に応じた審査を通過すれば「ものづくり補助金」「持続化補助金」「IT導入補助金」の3種が受取可能となり、選択的適用拡大をおこなった企業は優先的に支援が受けられます。また「キャリアアップ助成金」には選択的適用拡大導入時処遇改善コースがあり、選択的適用拡大に加えていくつかの要件を満たすと助成金が受け取れます。
ただし、従業員数101〜500人の企業は2022年10月1日より前、従業員数51〜100人の企業は2024年10月1日より前までに適用拡大をおこなうことが条件です。
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大ハンドブック」
2022年10月からの社会保険適用拡大で、老後に受け取れる年金の給付額が増えたり、病休期間中に給与の2/3相当を受け取れるなど、短時間労働者が受けられるさまざまな保障が充実します。
企業にとっては保険料の負担が増えるものの、社保完備で求人の魅力を高められたり、助成金や補助金の受け取りで有利に働いたりするなどのメリットもあります。
今回の社会保険適用拡大が短時間労働者にとって安心して働ける環境の実現につながるよう、社内で周知や準備をおこなっていきましょう。
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