近年、政府の後押しを受け、日本国内でも注目度が高まっている「リカレント教育」。目まぐるしく変化する社会情勢のなかで、社員の自律的かつ主体的な学び直しはますます重要性を増しています。しかし、社内における具体的な取り組みや促進については、課題を抱える企業も多いようです。
この記事では、リカレント教育の意味や注目される背景とともに、企業が社員の学び直しを支援するメリットと取り組みのポイントについて解説します。
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リカレント(recurrent)は、「循環」や「反復」を意味する英単語です。
リカレント教育とは、いったん学校教育を終えて社会人になった後も、それぞれ必要なタイミングで学び直し、また就職するというように、生涯にわたって学習と仕事(キャリア)を繰り返すことをいいます。そして、社員一人ひとりが社会で長く活躍するための取り組みとして、いま社員の自律的・主体的な学び直しが重要視されています。
リカレント教育は、厚生労働省や経済産業省、文部科学省など、日本政府が経済を成長させていくために総力を挙げて推進している政策の一つです。これからの日本企業の発展には、「社会人が学び直しを継続的におこない、労働の質を上げていくこと」が必要不可欠であるという方針を日本政府は表明しています。
リカレント教育が社会や企業で注目されている背景には、主に次の3つが挙げられます。
医学の進歩により平均寿命が延び長寿化したことで、人々のライフスタイルにも変化が生じています。「人生100年時代」といわれる人生の長い時間を充実したものにするために、定年退職後の再就職・再雇用や、それに伴う「生涯にわたる学習」が重要視されるようになりました。
社員が主体的に新しいことを学び、新たなスキルを身につけ、仕事に活用するということを反復し、自らキャリアアップを目指す必要性が高まっています。
少子高齢化による労働人口の減少やグローバル競争の激化など、社会環境が大きく変化している現代において、企業が従来の終身雇用や年功序列を維持していくことは困難な状況にあります。先行きが不透明で予測できないなか、よりよい条件を求めて転職や独立も視野に入れる働き方が増え、雇用の流動化が加速しています。
このような状況下においては、社員自身が時代に合った知識やスキルを積極的に身につけることはもちろん、企業が継続的な学びを提供・支援し、即戦力として活躍してくれる人材を確保することが求められています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)により、AIやIoT、ビッグデータなどのデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルが創出されたことで、組織や業務のイノベーションは必要不可欠なものとなりました。
これまでになかった先進的な技術が続々と登場するなか、市場の変化にあわせた専門的な知識やスキルを身につけなければ淘汰されてしまうほど、競争は激化してきています。企業は生き残りをかけ、技術の変化に適応するスキルを社員に習得させるべく、学びを継続・反復するリカレント教育を重要視しているのです。
リカレント教育と似た言葉として取り上げられることも多い「リスキリング」。
リスキリングとは「職業能力の再開発や再教育」を表す言葉で、ビジネス環境の変化に対応し、企業が主体となって人材の価値を高め成果を出し続けるための施策です。社員がいま持っているスキルを磨きながら新しい知識や能力を習得させたり、企業の求める新たなスキルを習得させることをいいます。
リスキリングの特徴は、企業が戦略的に社員へ学ぶ機会を提供し、現在の仕事と並行しながら学び直しを図ることです。一方、リカレント教育は自らの意思で知識やスキルの習得を目指すものであり、個人が主体となって学習を進めていきます。
また、海外ではリカレント教育はいったん仕事を離れて、離職中や休暇中に教育機関などで学びを進めることを想定しているものの、日本では仕事を続けながら週末や夜間などに自己学習として取り組むのが一般的です。
企業におけるリカレント教育は、社員のキャリア開発支援として位置づけられます。あくまで主体は個人であり、社員の自主的な学びを企業がサポートするのがポイントです。
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企業がリカレント教育を支援するメリットには以下が挙げられます。
リカレント教育による社員側のメリットは、自身のスキルや専門性が高まることで担当できる業務が増え、活躍の場が広がっていくことです。専門的な知識があれば、変化の激しい時代でも常に必要とされる人材となり、昇給や昇格を目指すこともできます。
キャリアの選択肢が広がることで、自分らしい働き方を実現でき、働きがいを感じてもらえるのもメリットの一つです。企業が積極的に学び直しを支援する姿勢は、会社に対する愛着心や貢献意欲を指すエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
組織内に知識やスキルのある社員が増えることは、企業全体におけるレベルの底上げとなり、業務の効率化や生産性の向上に期待が持てるようになります。また、リカレント教育により経験や価値観が多様化すれば、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなることもポイントです。即戦力となる人材を自社に確保することで、人材不足の解消と競争力の強化、ひいては持続的な企業成長にもつなげられるでしょう。
社員の主体的な学び直しを促進するには、企業の積極的なサポートが欠かせません。リカレント教育を推進するうえで企業が取り組むべきポイントを以下にまとめました。
まずは、社員がいま持っている経験や能力、スキルを明確化し、学び直しの方向性や目標を共有します。それを踏まえて個々に必要な教育訓練プログラムを提供し、社員の持続的な学習を促していきます。
社員が主体となって学び直しを進めるリカレント教育においては、企業が研修を指定・選定するのではなく、個人のキャリア開発を目的に幅広く用意した研修のなかから社員に選んで受講してもらうことが重要です。
また、企業としては社員一人ひとりが自律的・主体的に学習に取り組めるよう、休暇や休職、時短勤務、フレックスタイムなど、社内に新たな制度を構築し、学びの環境を整備することも重要です。
リカレント教育により社員が身につけた能力・スキルは、実際の業務で実践することで定着します。しかし、習得したスキルを自社内で発揮できない状態となれば、他社への流出のリスクが高まってしまうでしょう。
人材の流出を防ぎ、新たなスキルを自社内で最大限に活用するためには、学び直しをした社員がやりがいを感じ、活躍できるような場の提供が必要です。企業には研修制度を充実させるだけでなく、社員の能力を発揮できる業務や環境も用意しておくことが求められます。
学び直しによって得られたスキルを人事評価に取り入れることは、その取り組みを企業として評価し、社員の自主的な学びを支援していることを提示できます。新しい目標を生み出したり、社員の学ぶ意欲を高めたりするためにも、取り組んできた学習の成果を人事評価に適切に反映させることが大切です。
しかし、スキル習得のみでは業務における成果を生んだわけではないため、結果を評価するパフォーマンス評価(定量評価)ではなく、学びに取り組む姿勢や習得したスキルを評価するスタンス評価(定性評価)に取り入れることがポイントです。
リカレント教育とは、学校教育を終えて社会に出た後も、必要なタイミングで新たな知識やスキルの習得に自ら取り組み、生涯にわたって学習と仕事を繰り返すことです。企業においては社員のキャリア開発支援として位置づけられ、社会で長く活躍してもらうための取り組みとして重要視されています。
リカレント教育のメリットには、個人のスキルアップにより活躍の場が広がること、企業全体のレベルを底上げできることが挙げられます。企業としては、社員が自ら学びたい知識・スキルを選べるよう複数の研修プログラムを用意するとともに、習得したスキルを活用できる場の提供、さらにはスキル習得を評価する人事評価の構築などで、社員の学び直しをサポートしていく必要があります。
何歳になっても社員がいきいきと活躍できる環境をつくっていくために、リカレント教育の取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
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