2023年04月11日 08:30 #人事トレンド
2023年4月1日に施行された労働基準法の省令改正により、企業に給与のデジタル払い(デジタル給与)が解禁されました。4月3日時点でKDDI、楽天グループ、PayPayが指定業者になるための申請を提出し、その他数社の検討が伝えられています。
電子マネーやスマホ決済アプリによるデジタル給与の支払いは従業員側に一定のメリットが想定されます。一方、企業側のメリットとしては何があるのか、むしろ負担が増すのではないか、どのような流れでデジタル給与を導入するのか?など疑問を持つ方も少なくないでしょう。
今回の記事では、デジタル給与の前提条件、本格運用はいつからか、従業員・企業双方にとってのメリットやデメリットを解説します。
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デジタル給与とは、金融機関ではなく送金サービスを取り扱う「資金移動業者」を通じて支払われる給与のことです。
資金移動業者とは「銀行等以外で送金サービスを行っている事業者」を指し、前述の3社を含め現在日本には80以上の資金移動業者が存在します。
デジタル給与についての理解度は日本でも比較的進んでいます。
公正取引委員会による「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書(令和2年4月)」では、ノンバンクのコード決済事業者のアカウントに給与の支払いができるようになった場合、約4割の利用者が自身のアカウントに給与の一部を振り込むことを検討すると回答しています。
法的には2023年4月から、スマートフォンの決済アプリや電子マネーによるデジタル給与の支払いが可能になりました。ただし、2020年から議論が始まったデジタル給与については、政府内の検討会でさまざまなリスクや懸念の指摘があり、対策として事業者や利用などに関してさまざま条件が設けられているので注意が必要です。
デジタル給与が2023年年4月1日に解禁されてから、実際に給与の支払いに利用できるようになるまでには下記の段階を踏む必要があるため、まだ数カ月がかかると見込まれています。
デジタル給与が導入されるまでの段階
●フェーズ1:2023年4月1日に資金移動業者による厚生労働省への申請が可能になる。
●フェーズ2:申請を受け付けたのちに厚生労働省が審査を実施、基準を満たす場合資金移動業者の指定をおこなう。※審査に数カ月単位の時間がかかる見込み。
●フェーズ3:指定業者が確定後、デジタル給与を導入する企業は支払い対象となる労働者の範囲や指定業者の範囲などを記載した「労使協定」を締結する。
●フェーズ4:労使協定締結後、従業員にデジタル給与の説明を実施、希望する従業員は企業へ同意書を提出する。
●フェーズ5:同意書に従業員が記載した支払い開始希望時期をもって、デジタル給与の支払いが開始となる。
デジタル給与は、従業員、企業双方とってのメリットとデメリットがあります。
まず、従業員側のメリットから解説します。
従業員は、給与が資金移動業者のアカウントに直接振り込まれるようになると、銀行口座からチャージする手間をかけずにそのまま利用できるので、キャッシュレス決済の利便性が高まります。
すでに一部の大手業者が実施しているように、デジタル給与払いについて各資金移動業者がポイント還元やキャッシュバックのキャンペーンを実施すると、従業員側の経済的メリットが高まります。
デジタル給与は、一部を資金移動業者のアカウントで受け取り、残金を銀行口座等で受け取る選択も可能です。口座引き落としや預金等銀行口座を活用しつつ、デジタル給与によるメリットも享受できます。
企業にとって資金移動業者での送金は手数料の削減につながるので、給与の支払いの頻度が月2回、週1回などに増える可能性も出てきます。
デジタル給与の送金に利用できる資金移動業者の指定にあたっては、口座残高の上限額を100万円以下に設定するか、100万円を超えた場合はすみやかに100万円以下にするための措置を講じることが条件とされています。
該当のアカウントで100万円以上を保持することはできないので、預金には向きません。
次に企業側のメリット・デメリットを解説します。
企業にとってデジタル給与支払いのメリットはコスト削減、従業員満足度向上などがあります。しかし、導入にあたって給与支払業務やシステム構築への投資などの負担は避けて通れません。このため、バランスを考慮して検討する必要があります。
まず、大きなメリットは、銀行振込に伴う手数料の削減です。従業員の人数が多いほどこれまで高額な手数料を支払う必要がありました。しかし、資金移動業者の場合同一事業者内での送金は手数料無料でおこなえるため、企業アカウントを開設しそこから従業員のアカウントへ送金すれば手数料の削減になります。
今後、資金移動事業者で法人向けの送金サービスが整備され、手数料が有料になったとしても、銀行振込よりも低い手数料に設定される可能性が高く、企業によっては大幅なコスト削減が見込めるでしょう。
デジタル給与の導入により、給与の支払い方法や頻度の選択肢が増え柔軟な対応が可能になることは従業員の福利厚生の一つだと言えます。
アルバイトやパート、派遣などの非正規従業員の多い企業であれば、支払いサイクルを短くすることで、同業他社よりアドバンテージを得ることも可能でしょう。先進的な取り組みをおこなう企業として、採用活動時のイメージアップにもつながります。
ただし、運用に際してはさまざまな制限もあります。
当初のデジタル給与の検討段階では、銀行口座の開設が難しい外国人労働者などへの給与の支払い方法としても有用と考えられていました。
しかし、実際には資金移動業者の残高が100万円を超える場合の送金先として銀行口座の登録をしなければならない運用になっています。このため、労働者が銀行口座を持っていない場合は結局、デジタル給与を利用できないおそれがあるので、注意が必要です。
デジタル給与支払いを開始する際、給与支払いにかかる、新たな仕組みやシステム環境の構築にかかる負荷・費用の負担増加は避けられません。
これまでのように銀行振込1本ではなく、従業員が希望する指定業者へ分割して振り込むとなると事務手続きの負担も増えるでしょう。
企業は指定業者を勝手に決めたり、デジタル給与払いを希望するように強制することはできません。労使協定の締結や従業員への説明もおこなう必要があるなど、手続きにも所定のルールがあるためその労力も発生します。
また、従業員数や企業が所在する地域によっては、わざわざ投資してもそれほど利便性も高まらず、企業の負担だけが増える可能性もあります。現状では、デジタル給与に関して何ら関心を持たない人の割合が高いのも事実です。
自社におけるメリット、従業員のニーズがどのくらいあるのかは、資金移動業者がすべて決定
してからでないとシミュレーションしづらい状況です。今後、決済業者を統括できる便利なSaaS(クラウドシステム)が登場する可能性もあります。したがって、ことさら導入を急ぐ必要はないでしょう。
スマートフォンの決済アプリや電子マネーによるデジタル給与の支払いは、2023年4月1日から解禁となりましたが、資金移動業者の審査に時間がかかるため、実際の運用は数カ月遅れて開始されるとみられています。
デジタル給与支払いは、従業員にとってはキャッシュレス決済の利便性の向上、給与振り込みの柔軟性の向上といったメリットが見込まれます。企業にとっても銀行の振込手数料の削減や福利厚生としてのメリットがあるでしょう。
しかし、企業側には業務負担の増加や新たなシステムの構築に対する投資が必要になります。
デジタル給与の実際のメリットの大きさや、業務負荷とのバランスについて現状では見通しを立てるのが難しいでしょう。実際には、指定資金移動業者が確定し、複数の企業で運用が開始されるまでは予測がつきにくいです。このため、早急に制度を導入するのではなく、しばらくは様子を見るのが現実的かもしれません。
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