2023年12月12日 08:30 #人事トレンド
生産年齢人口の減少とともに、企業の人材確保は年々難しくなっています。また、転職が当たり前の時代になり、入社した新入社員が早期離職することも珍しくなくなりました。懸念すべきは後ろ向きな離職だけでなく、キャリア志向が強いがゆえの離職も増えていることです。
新入社員の定着率向上はいまや人事施策上の重要課題となっています。採用から定着の流れまでをしっかりと仕組み化していきましょう。
この記事では、早期離職を防ぐ施策として「メンター制度」を紹介します。またメンター制度では対応できない課題をサポートする手法として、キャリアコンサルティングやワークライフファシリテーターの導入についても取り上げます。
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■メンター制度以外の人材育成施策やその他サポート制度の必要性
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メンター制度とは、年齢や勤続年数の近い先輩社員が、新入社員や若手社員をサポートする人材育成の手法です。相談役となる先輩社員は「メンター」、サポートを受ける若手社員は「メンティー」と呼ばれます。
メンターは、一般に他部署の先輩社員が担当します。これは、職場の上下関係が持ち込まれないので新入社員や若手社員が相談しやすくなることを考慮してのことですが、厳密なルールはなく、企業によっては同部署の先輩社員がメンターになることもあります。
メンターに任命された社員は、業務上の相談はもちろん、人間関係の悩みやキャリア形成上のアドバイス など、幅広くサポートする役割を持ちます。
企業がメンター制度を導入する主な目的は、社員の離職防止です。厚生労働省の公表した「令和2年卒業の新規学卒就職者の離職状況」の資料によると、就職後3年以内の離職率は高卒者が37.0%、大卒者は32.3%と依然高い水準です。
また、日本労働組合総連合会の「入社前後のトラブルに関する調査2022」においては、新卒で入社した会社で十分な研修があったかという質問に、21%が「なかった」と回答しています。フォロー不足のため離職するケースが少なからずあると推測できます。
違う角度の資料として、株式会社学情が2023年に自社就職サイトで転職を決めた20代におこなった調査を見ると、61.8%が「社会人になる前から転職を視野に入れていた」と回答しています。現在の20代のキャリア観が変化していることがわかります。
離職理由も多様になっていることが考えられるため、社員一人ひとりに寄り添うようなサポートが必要になり、メンター制度を導入する企業が増えているといえるでしょう。
日本メンター協会の2022年の調査では、メンター制度を導入した企業の88.2%が「非常に効果があった」から「普通」と回答しています。満足度に差はあるものの、比較的効果が出やすい施策だといえるでしょう。
以下、メンター制度のメリットを解説します。
メンター制度は、新入社員や若手社員の早期離職を防ぐ効果や社内コミュニケーションを活性化させる効果が期待できます。また、若手女性社員のメンターに先輩女性社員を配置することで、身近なロールモデルの役割を担ってもらえるため、女性活躍推進施策としても活用できます。
一般にメンターは自分の指導で新人が成長していく姿を見るとモチベーションが高まります。相談に応じるなかコミュニケーションスキルも向上します。総じて、先輩としての自覚が芽生え、仕事への責任感が強くなることが期待できます。
入社直後の新入社員や転職したばかりの若手社員は戸惑いを覚えるケースが少なくありません。業務上の問題だけでなく、会社の仕組みがわからず悩む場合もあります。気軽に相談してよいメンターの存在があることで不安やストレスが軽減します。メンターとの関わりを通じて組織について理解も深まるでしょう。
ここでは、メンター制度のデメリットを解説します。
メンターとメンティーの相性が悪いと、逆に早期離職を招いてしまう可能性があります。また、メンター制度は対面での信頼構築を前提にしているため、リモートワークには馴染みにくい面があります。
メンターは通常の業務をこなしながら、新入社員のフォローをおこなうので業務負担が過重となる可能性があります。メンティーのサポートを熱心におこなっても、まったく評価にならないとストレスを感じる社員もいるかもしれません。
そのため、メンターを何かしら評価することが大切です。担当者には「メンター経験で成長することを期待している旨」を必ず伝えましょう。企業によっては管理職への登竜門と位置付けるケースもあります。
メンターの指導力によって育成のスピードにばらつきが生じることがあります。担当メンターの能力や相性に教育効果が依存する点はデメリットといえるでしょう。人事部の人材マッチングが重要になります。
近年は、新人がミドル・シニアの場合もあります。また、新人だけでなくすべての社員を支援したい場合、近年はライフイベントが多様化しており課題や悩みもさまざまなので、メンター制度では対応できない面も出てきます。
ここでは、従業員一人ひとりのキャリアの課題に対応するサポート制度として「キャリアコンサルティング」「ワークライフファシリテーター」を紹介します。
まず、キャリアコンサルティングの概要と導入目的を解説します。
キャリアコンサルティングとは、個人がキャリア開発を進めるために受けるコンサルティングです。キャリアコンサルタントが個別にカウンセリングを実施してこれまでの経験やスキル、本人の適性に応じてアドバイスをします。その過程で、当人は自分の理想のキャリアを模索しながらキャリア形成を考えていきます。
企業内でキャリアコンサルティングを実施する目的は以下2点です。
・キャリアプランの形成
ライフステージが変わると新たな課題、不安が生じることがあります。キャリアコンサルティングを受けると気持ちの整理ができ、自分が気づいていなかった適性や新たな価値観に気づきやすくなるので、ライフステージに応じたキャリアプラン形成が容易になります。
・モチベーションの向上
同じ会社で長く仕事をしていると、キャリアビジョンを描く機会が少なくなりがちです。モチベーションの低下に悩む社員も出てくるでしょう。キャリアコンサルティングを実施して新たなキャリアプランが明確になると、仕事に対するモチベーションの向上が期待できます。
ワークライフファシリテーターとは、キャリアとライフプランニングの両面の相談を受けてアドバイスをおこなう専門家です。働く人の幅広い課題を受け止めてアシストできるのがワークライフファシリテーターの強みといえます。
パソナでは、ワークライフファシリテーターを社内に置き、従業員からキャリアカウンセリング・育児・介護・定年後の生活設計など幅広い悩みに対応する試みを実践しました。その結果、年間1,000名を超える相談がありました。「人生に対して前向きにチャレンジ できるようになった」といった声が多数寄せられ、社内研修やセミナーへの参加者も増加しています。
このような大きな成果を得られたため、パソナでは「ワークライフファシリテーター協会」を設立し、同様の取り組みを社外にも広めるべく活動しています。キャリアコンサルタントの資格保有者を対象とした「ワークライフファシリテーター養成講座」をスタートし、人材の育成にも取り組んでいます。
メンター制度は新人の離職防止だけでなく、社内のコミュニケーション活性化や女性活躍推進などにも有効な施策です。社内のリソースで対応できることが多く、比較的取り組みやすい施策でもあるでしょう。
ただし、若手社員だけでなく幅広い年代の従業員のサポートを検討するなら、キャリアカウンセリングやワークライフファシリテーターなどによる支援も視野にいれることが望ましいでしょう。特に、近年は生き方の選択肢が多様化し、人生全体のライフプランニングをおこなうという視点が重要性を増しています。
このように一人ひとりの従業員のニーズに細やかに対応できると社員のリテンションやエンゲージメントの向上につながるでしょう。パソナでは「ワークライフファシリテーター協会」を設立し、幅広い層のキャリアやライフの悩みに対応できるプロフェッショナルの育成と活用の仕組みづくりを進めています。ご興味を持たれた人事担当の方は、ぜひ下記のリンク先で詳細をご覧ください。
サービス詳細:ワークライフファシリテーター協会
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