2023年09月12日 08:30 #人事トレンド
社会情勢の変化に合わせて、私たちの働き方も変化しています。そして、労働者の働き方を規律する法律である「労働基準法」も改正を繰り返しており、特に働き方改革の実施に合わせて大きな改正が順次施行されているところです。企業としては法改正の内容を正しく理解し、抜け漏れのないよう対応していくことが求められます。
この記事では、過去の労働基準法改正を紹介するとともに、2023年に施行された改正と2024年に施行される改正のポイントを解説します。
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労働基準法とは、労働者の生存権保障を目的として1947年に制定された法律です。賃金や労働時間、時間外労働など、労働条件に関する最低基準を規定しています。
労働基準法に定められている主な内容は以下のとおりです。
〇賃金支払いの原則:直接払い/通貨払い/全額払い/毎月払い/一定期日払い
〇法定労働時間の原則:1日8時間/1週40時間
〇時間外・休日労働:労使協定の締結
〇割増賃金:時間外・深夜労働:25%以上/休日労働:35%以上
〇解雇予告:30日以上前の予告または30日分以上の平均賃金の支払い
〇有期労働契約:原則3年(専門的労働者は5年)
参考:厚生労働省「労働基準に関する法制度」
労働基準法が制定された当初、法定労働時間は1日8時間・1週48時間でした。その後、段階的に労働時間の短縮がおこなわれ、1993年の改正で現在の週40時間労働制が実施されることになります。また、休日労働の割増賃金も当初は25%以上としていましたが、1993年の改正により35%以上に変更されています。
社会の変化とともに、労働基準法はこれまでにさまざまな改正がおこなわれてきました。以下では主要な改正点を紹介します。
· 法定労働時間を週48時間から週40時間へ段階的に引き下げ
· 変形労働時間制の導入(フレックスタイム制、1か月単位、3か月単位)
· 週40時間労働制の実施(一部の業種については一定の猶予措置)
· 1年単位の変形労働時間制の導入
· 時間外・休日労働の割増賃金率の規定(時間外:25%以上/休日:35%以上)
· 裁量労働制の整備
·1か月あたり60時間を超える時間外労働の割増賃金率を50%以上へ引き上げ
(中小企業については一定の猶予措置)
· 時間外労働の上限規制(大企業:2019年4月〜/中小企業:2020年4月〜)
残業時間は月45時間・年360時間を上限とし、特別の事情がない限りこれを超過できない。上限規定に違反すると罰則が課されることもある。
· フレックスタイム制の清算期間の上限を1か月から3か月に延長
· 高度プロフェッショナル制度の創設
· 年間5日間の有給休暇の取得義務化
参考:厚生労働省「労働時間法制の主な改正経緯について」
2023年4月に施行された労働基準法改正のポイントは以下の2点です。
時間外労働における割増賃金率の引き上げは、これまで大企業を対象として2010年4月より先行実施されていました。つまり、月60時間を超える時間外労働を実施した場合、大企業に限っては割増賃金率が50%となります。一方、中小企業に対しては資力を考慮し、50%への引き上げは猶予されていました。
しかし、2023年4月に猶予期間が徒過したことで、現在は中小企業も割増賃金率引き上げの対象となっています。具体的には、2023年3月以前は中小企業を対象とする時間外労働の割増賃金率は25%でしたが、2023年4月以降は月60時間を超える時間外労働を実施した場合、大企業と同様に中小企業の割増賃金率も50%へと引き上げられました。
なお、時間外労働が月60時間に満たない場合は、大企業・中小企業ともに25%の割増賃金率が適用されます。これは2023年4月以降も変わっておらず、今回の改正では中小企業の月60時間を超える時間外労働に対して割増賃金率を引き上げています。
出典:厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
この改正の目的は、従業員の時間外労働を抑制することにあります。過重労働が従業員の心身に大きな負担となることは明白であり、従業員の健康確保は企業にとって大きな課題となっています。この点、健康経営という形で、従業員の健康確保を経営施策の一環として推進する企業も増えています。
しかし、健康経営の推進は専門性が高く、企画運営を社内ですべて担うのは難しい面もあります。そこで検討してもらいたいのが健康経営の取り組みをサポートする外部サービスの活用です。パソナでは「健康経営支援サービス」を提供し、各社の健康経営の状況に応じて4つの観点からサポートをおこなっています。本サービスの詳細については以下のリンク先からご確認ください。
関連サービス:パソナ健康経営支援サービス〜健康経営の着実な一歩を伴走サポート
2023年4月から給与のデジタル払いが解禁となりました。給与のデジタル払いとは、給与を電子マネー(デジタルマネー)によって支払う仕組みのことです。あくまで給与の支払・受取方法の選択肢の一つであり、企業がデジタル払いをおこなうには従業員の同意が必要です。このため、企業がデジタル払いを導入したとしても、従業員が希望しない場合には従来の受取方法が継続されます。
給与のデジタル払いを導入するには、事前に雇用主と従業員との間で労使協定を締結する必要があります。流れとしては、2023年4月より資金移動業者が厚生労働大臣へ指定申請し、厚生労働省が審査をおこないます。大臣指定後に各企業が労使協定を締結し、従業員への説明、同意を得てからの導入となります。
なお、実際にデジタル払いをおこなえるサービスは限られており、厚生労働省が指定した資金移動業者でなければなりません。指定資金移動業者については厚生労働省のホームページにて掲載される予定です。
また、給与デジタル払いの解禁にあたって、労働基準法施行規則の改正がおこなわれました。労働基準法では「給与は①通貨で②直接労働者に③全額を④毎月1回以上⑤一定の期日を定めて支払わなければならない」という賃金支払いの5原則を規定しています。しかし、電子マネーは「通貨」ではないことから、法律上の問題があるとされました。この点については、従業員の同意を得た場合は銀行振込を認めるという例外的な規定もあり、労働基準法施行規則を改正することで給与のデジタル払いも許容されることとなりました。
現行法によると、時間外労働の上限は原則として「月45時間・年360時間」とされ、臨時的な特別の事情がない限りこれを超過することはできません。大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から段階的に実施されてきました。
ところが、この規定には例外があります。建設業や物流運送、医師については5年間の猶予期間が与えられており、2024年3月31日までは上限規制が適用されません。これらの業種は人材不足が顕著であり、急激に残業時間の短縮を進めるのが難しく、一定の猶予期間が必要と判断されたからです。
しかし、この猶予期間も2024年4月には徒過し、他業種と同様に労働基準法の規定が適用されます。これにより、建設業や物流運送などの事業をおこなう雇用主は、2024年4月の施行までに労働時間の適正化を図らなければなりません。
ビジネス環境の変化に合わせて改正を繰り返してきた「労働基準法」。働き方改革の実施に伴い、法改正のスピードも加速しています。
2023年と2024年の改正は賃金や労働時間に関する内容が中心です。これらは給与計算に直接関わる内容でミスが許されないため、外部のBPOサービスを利用することも有力な選択肢となります。この点、パソナでは「人事給与BPOサービス」を提供しており、給与計算にかかる業務量と業務コストの大幅な削減を実現しています。
また、属人化しやすい給与計算業務の標準化をサポートしているのも本サービスの特徴です。具体的には、綿密なヒアリングと業務調査をおこない、必要なタスクを整理します。そして、最終的にマニュアルを作成し、誰でも業務に従事できる状態をつくります。このようにパソナのBPOサービスを活用すれば、繰り返される法改正にスムーズに対応できるだけでなく、給与計算業務の改善も図れます。人的負担の削減や属人化の解消に向けた選択肢の一つとして、BPOサービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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